PART13 「お山の杉の子」
著者 小山清春

♪ 昔々のその昔 椎の木材の すぐそばに
 小さなお山が あったとさ あったとさ
 丸々坊主の禿山は いつもみんなの笑いもの
 「これこれ杉の子 起きなさい」
 お日さま ニコニコ声かけた 声かけた

 一 二 三 四 五 六 七 八日 九日 十日たち
 にょっきり芽が出る 山の上 山の上
 小さな杉の子 顔出して
 「はいはいお日さま こんにちは」
 これを眺めた椎の木は
 アッハハのアッハハと 大笑い 大笑い

 「こんなチビ助 何になる」
 びっくり仰天 杉の子は 思わずお首をひっこめた
 ひっこめながらも 考えた
 「何の負けるか 今に見ろ」
 大きくなって 皆のため お役に立ってみせまする

 ラジオ体操ほがらかに 子供は元気にのびてゆく
 昔々の禿山は 禿山は 今では立派な杉山だ
 だれでも感心するような 強く 大きく 逞しく
 椎の木見下ろす大杉だ 大杉だ  ♪♪

 



お山の杉の子歌碑
 この懐かしいにっぽんのふるさとの歌「お山の杉の子」は、昭和十九年の公
募一席の歌。作詞の吉田テフ子は、徳島県有数の椎の木材の町の素封家に生ま
れた。子供の頃、木材の供出が多く禿山が増えていった。そんな思いの中でこ
の歌が生まれ、終戦とともに放送やレコードが販売禁止になる。
翌年、この歌をもう一度復活させようと、サトウハチローが戦後になって改作
したものである。
 杉の子は50年もすると直径20センチ以上にもなる大人杉になる。あれか
ら57年もの歳月が経って、お首をひっこめたチビ助も、今では椎の木を見下
ろすほどの立派な大杉になった。

 このような大木の杉林をほうふつさせる天然杉の山奥へ踏み込んだことがあ
る。秋田県北部、鷹巣町の隣りの「恋文の町」二ツ井にある日本一高い天然杉
である。
 この鷹巣町での単身赴任のところへ、久々にわが子たちの母がやってきた。
しばらくぶりに見た錯覚なのか、新鮮に見える女性がやってきたのである。一
緒に国道七号線道の駅「きみまち阪」から米代川を渡り、南へ車で30分の仁
鮒・水沢「スギ植物群落保護林」に出かけた。車を降りてから山道を登るが、
さほど急ではない。ところどころに板を敷き詰めた一本道があったり、間伐材
の階段があったりして、ゆっくり眺めながら歩く。五月の季節に行ったことも
あり、水芭蕉・二輪草・キクザキ一輪草や名も知らぬ見事な山野草などがいっ
ぱい針葉樹の足元に咲いている。遠くの方からウグイスの声、自然と倒木とな
った天然杉をぬうように、澄んだ湧き水がちょろちょろと流れる。新鮮な水は
美味しい。見渡す限りひと抱えもふた抱えもある大杉の林が、うっそうと両側
の山々を覆い、青空を遮り日中でも薄暗い。さすがは秋田杉の銘木の産地だけ
ある見事さがあった。
 登ること約20分。ようやく日本一高い天然杉との出会い。樹高58メート
ル、直径164センチ。この一本で53坪の木造住宅一戸が建つという。愛称
が「キミマチスギ」である。まわりの巨木のほとんどが日本一に近く超一級の
杉美林だ。このようなすばらしい杉林があり、日本一高い大杉との出会いは嬉
しかった。


 今では低迷している木材産業も奈良の正倉院や、特に法隆寺は八世紀はじめ
に再建され、現在は世界最古の木造建築である。四方を海に囲まれた地震国の
日本には、柔軟性があって、しかも乾季と雨季がはっきりしている気候風土に、
木造建築は最も適しているのである。
 山形の我が家は、築100年以上にもなる。現在、これほどの木材を国内で
調達しようとするのはむずかしい。大木の栗材やかえでの敷居などが贅沢に使
われている。全部が木材だ。
 コンクリートの家には住みたくない。仙台での単身アパート生活は大変だっ
た。結露はするわ、通気が悪いわ、ホコリは逃げないわ、いつコンクリートの
塊が落ちるかと思うと夜もおちおち眠れやしない。
 日本一高い大杉を見上げながら、自宅と単身赴任の夫のところを往復して、
忙しい生活に潤いを求める妻は、「おにぎり持って、ビール持って、(横にな
る)ふとんまで持って、こういう森林浴は、いいね・・・」
 森林には、心身ともにリフレッシュし、人間がさわやかに生きる原点がある。

 宮城県唐桑町の漁師たちが海にそそぐ川をさかのぼり、ブナやケヤキを植林
して10年。「牡蛎の森」と名付けたこの山のすばらしい森の恵みは、気仙沼
の海の牡蛎を育てるのだと漁師たちは言う。
 秋田県北部地方は森林の宝庫。すばらしい大自然がいっぱい。

 出かけたねぇ。そこは秋田県と青森県とにまた
がる世界自然遺産の白神山地。ブナを主体とした
広葉樹が広がり、原生的なブナ林は世界最大急の
太古の森林の姿で、今にも伝えるものだ。またそ
こに住むクマゲラは、国の天然記念物にも指定さ
れている。
 人間の世界も山の森林によって育てられ、杉の
大木もブナの大樹の幹の基は、「人」という文字
のように大地に根をおろし、大きく広がりどっし
りとしている。
 木の温もりは人の温もり。だからログハウスや
道路わきのちょっとした木材建築に出会うと、ホ
ッと心がなごむ。特に寒い地方では木のぬくもり
の巣晴らしさをしっかりと心に根を広げていきた
いもんだ。
 
お山の杉の子歌碑 写真提供:「宍喰町」

『著書「お色気ちょっぴり 肩のこらない話」から』