その日は3月の上旬、旅には小春日和のすばらしい日であった。
横浜の娘のアパートから、泣き顔で追いすがる孫に『夕方また帰っ
てくるから』と言い含めて出たのが午前9時。
JR横浜駅から横須賀線で鎌倉までは約25分の距離である。料金
は330円なり。
「こんなに近いんだね」
とは連れ合いの印象である。
鎌倉・江ノ島は、40年前に中学校の修学旅行以来ついぞ来たこ
とがなかった。2年前になるが、楽しみいっぱい駅頭に降り立った
途端、目前の定期観光バスは発車し乗り遅れてしまったのである。
そこで駅前のレンタサイクルでの市内観光となった。
鎌倉の市内は狭いから、自転車での観光めぐりは誠に快適なのであ
る。すっかりこの自転車観光の旅に味をしめ、今回二度目の挑戦と
なった。1日コースで一人1600円、しっかりと前金である。
「あれ、おとうさん財布忘れてきたの、あたし持ってないわよ。い
つもあなたが出しているから」
娘に携帯するとテーブルに上がっているという。
さて困った。二人の小銭入れには帰りの電車賃すらない。連れ合
いの小さめのリュックを探す。
「あった!郵便局のカード」。
ところがその日はあいにくの休日。駅前交番で「ホリディサービ
スをやっていると思われる鎌倉郵便局は、どの辺ですか?」
歩いて約15分ぐらいだという。ATMで1万円を下ろし、胸ま
でなで下ろし危機一髪。
「ホリディサービスは助かるね、やっぱりカードは便利だわ」
時代のすう勢から、ますますATMの休日扱いが増えるだろう。
ありがたさを実感する。
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