PART7 「若さの三拍子・・・その三」
著者 小山清春

若さの三拍子ってなに???
第一に「声」だな、第二は「行動範囲」、それに「欲望」だろう。この三
つこそ若さの三拍子だな。

第三は「欲望」
明治34年生まれの95歳で天寿を全うした祖母が、亡くなる前によく言
っていた。
「なんにも欲しいものも無くなったなぁ、生きているのも大変だぁ・・・」
明治気質の足腰も丈夫で、そこそこ国民年金をもらってはいたが、物欲も
生きる望みも欲しくなくなったという。
「婆っちぁ、金もいらねえのがぁ・・・」
人間はこうまで無欲になるもんだろうか、と思ったりした。私が48歳の
頃だった。

人間には5欲。すなわち財・色・食・名・睡を求める欲望がある。何が一
番かということもないが、他の欲望と異なり若々しく生きようとするには、
まず色情だろう。気持ちだけが十分でも、とかく萎えがちになるのが「異
性へ憧れる自信」ではないのか。
『老境に入ってから人間には2、3の秘密があってもよい。これを暴こう
とするのは、むしろ野次馬根性だという。詩人ゲーテは74歳で、19歳
の恋人に求婚したという。「徒然草」には、何事にも万事すぐれていても、
恋愛の情を解さない男・女は玉のさかづきの底なしのようなもの。
また久米の仙人は、空を自由自在に飛ぶ神通力で飛行中、吉野川で衣を洗
う若い女の脛の白きを見て、通力失い墜落したというではない・・・・・』
ざっとこんな内容の文章を何かで見たような気がする。


彼の大岡越前守は、年老いた母親に尋ねたそうだ。
「おかあさん、女はいつまで男を欲しがるもんですか?」と。
 母親は黙って、火箸で灰をかき回していたそうだ。これを
見た越前守は、
「ははぁ、女も灰になるまでか・・・・・・」
 と悟ったそうである。有名な話である。歳がいっても“婆
力”があるのはいい。
 男も女も異性への憧れに心のときめきを感じてもいい。
そうかといって何も色恋沙汰を起こすことではない。それと
も本気になってみる?
 “気をつけろ! 人の妻と枯れ枝は、登りつめると命がけ”
 渡辺淳一の小説「失楽園」のように、
 “赤ワイン 青酸カリ入れ 共に飲み”
 人生の結末を軽井沢ならずとも、関八州を一望する名峰筑
波山にある女体山の頂上で、激情する二人の終焉を迎えるこ
ともあるまい。


明治気質の祖母は、56歳の時、連れ合いを病気で亡くした。
「亡くなるような人は、1年ぐらい前から(釣りバカ日誌の“合体”)・・・・
無くなるもんなんだねぇ」
 何気なく洩らしていたのを記憶している。とすると、やっぱりときめく欲
情は若さだね。通勤途上のホームの売店で働くお姉さんでもいい。電車で決
まって向かい側に座るお嬢さんでもいい。いつも「お帰んなさい!」と声が
けしてくれる町内のおかみさんでもいい。行きつけのスナックの美白丸ぽち
ゃのママさんでもいい。もっともっと隣人を愛し、異性にほのかな愛情を持
ちなさい。ボサボサの髪ではなく、毎日同じネクタイではなく、ホームの柱
の鏡に写った顎のあたりに剃り残しの白いヒゲがあったり、白い鼻毛がトン
ネルから生い茂っていたりすることなく、身だしなみを整えさわやかに・・・・
「お早ようございます!」
と、ビルの向こうに広がる私の青空に、太陽にあいさつをしましょう。

 
『著書「お色気ちょっぴり 肩のこらない話」から』