セイコーエプソン株式会社
広丘事業所様
情報画像事業本部
TP情報推進部
課長
  大勝 伸一様

 

はじめに・・・・・・
お忙しい中、ご協力いただきまして、本当にありがとうございました。
この場をおかりしまして、心より御礼申し上げます。
アルターシステム㈱ 松 永

文中敬称略

Q 本日はお忙しい中ありがとうございます。
  それではまずセイコーエプソンさんの広丘事業所では、どのような製品を設計、開発されているのですか?
そうですね、広丘事業所は、情報事業画像本部という事業所になります。ここで設計している商品は
  プリンターです。インクジェットプリンター・ドットインパクト・レーザープリンターなどが主なものです。あとは
  周辺機器です。スキャナー・デジタルカメラといったところです。また、今流行の複合機器といわれる
  スキャナーとプリンターが一緒になっているものです。


Q 実際には広丘事業所で、設計開発されてASSYまで行われているのですか?
A 極一部を除いて物を作るということはないです。


Q そうですか。製品の製造工程では、広丘事業所ではどの範囲を担当されているのですか?
A 物を作る手前までです。技術といわれるところまでといいますか。製造技術といわれるものはここにはあるような
  無いような感じですので、どちらとも言えませんね。


Q 実際に製造するのは、国内でしたら、どの事業所なのですか?
A 国内外注です。あとは海外現地法人になります。


Q 海外現地法人をご紹介いただけますか?
A エプソンの名前で言いますとシンガポールにあるSEPですね。インドネシアにあるIEI、中国のESL、フィリピンの
  EPPI、あとアメリカにEPI、イギリスにETLです。しかし、今製造のほとんどが東南アジアに移行しています。


Q 昨年だったと思うのですが、北九州への移転に関しては、設計開発部の一部が北九州に移転したということですか?
A そういうことです。
  1999年末に分散移転を開始して2000年に本格的に稼動を、九州とシンガポールにおいて開始しました。
 
Q 大勝様の部署は、TP情報推進部ということなのですが、概略としてどのような業務を行われているのでしょうか?

A 基本的には、本社の情報推進のミッションに似ています。本社部門は、全社またがる方針作りが中心で、
  それを我々事業部の情報推進部門が、事業部の中に落とし込んで具現化し、実際の設計現場で
  役立たせる現場での旗振り活動と、事業部における設計技術の直近の課題に取り組むと言ったすみわけで
  活動しています。



Q 電気、メカとありますがサポート範囲としては全てを含んでいるのでしょうか?
A 部門としては全部です。あと事業部のPDM周りのサポートもしています。ですから品質周りのデータですとか、
  技術関連の情報などの、データベース化などのシステム化も我々がやっています。


Q 電気関連の話ですが、現在情報データベース管理は、図研さんのDS-1で行っているとお聞きしています。
  CADは回路系がSDで、プリント板設計をVISULAということで伺っていますが、今後のEDA環境に関しまして
  お聞かせ願えますか?

A CADに関してですが、VISULAは図研さんからの意向もありまして、新しいCADへの移行ということを、来期辺りで
  考えていかなければいけないと思っています。それ以外のCADツールに関しては、基本的には現状のままです。
  今のままで仕事の効率化を計るということはあるとしても、CADを変えるということは、現在、考えておりません。



Q 2001年が始まったばかりですけれども実質、TP情報推進部さんとしての、これからのテーマ、
  推進テーマなどありましたらお聞きしたいのですが?
A 基本的に、私たちが取り組んでいるのは、電気設計に関する統合環境といわれるものです。
  プリンタの商品設計者にとって最良の環境を提供し、最終的に良質の製品を早く設計することができるように
  する事が重要なテーマですね。
  本来、図研さんや他のメーカーさんのシミュレーター・CADであるということを感じさせずに、机に向かうとそこに
  「全ての情報」があり、迷うことなく設計を進めることができるシステムを思考しています。そのシステムは、技術・
  情報・ツール・ソフトウェア・データベースなどで構成されており、設計者の支援を行います。
  例えば、設計工程毎に利用するべきツール・システムまたは、データベースなどをナビゲートし、設計検証を行い、
  最終デザインデータとして保管する。このような一連の設計工程をドラスティックにナビゲートすることにより、設計
  者の負担を軽減します。結果的に製品開発サイクルを短縮することになり、世の中に早く製品を流通させる
  ことができるという訳です。そのために必要なインフラとしてCADを整えること、シミュレーターのインフラを作ること、
  部品情報を作ることなど、必要なインフラを整備することが非常に重要だと思っています。
  ただ、CADやシミュレーターを買ったからといって、すぐ使える物ではないので、基本的にはそれを使える状態に
  して商品設計者に渡していくことが、最終的な目的だと思っています。


Q 統合環境という部分でナレッジマネージメントと同じイメージですが、それともナレッジマネージメントの中に
  統合環境があるイメージですか?

A 難しいですね。私たちが現在行っているミッションの中でナレッジとは何か、それはやはり設計する中での、
  電気系やソフト開発というところに必要な技術情報であったり、今までやってきた経験的な財産であったり
  しますね。財産というのも単に分類も何もせずに、ただ置いてあるのならこれは経験でしかなくて、原理や
  原則などを追いかけて、しっかりと皮をむいてあげて、使えるものにしてやってこそ、それがナレッジだと思う
  んです。今の世の中で情報というものは錯綜していますよね。そういう情報を設計に役に立つものにして
  共有する。そういうことをしないとナレッジマネージメントにはならないと思うんですよ。結果論的なものと
  いうのは多くあると思うんですよ。誰かが間違えてしまったから「こうやって直しました」。
  これは結果論ですよね。しかし根本的な原因ですとか、原理など次に伝えていきたいという気持ちは、
  皆あると思います。今までのノウハウですからね。その情報を共有化して皆が使うことが次の商品化に
  活かされる様なサイクルは必須だと思います。



Q そうですね。各セットメーカ様でも情報共有に関しては、悩まれていますね。
  このようなシステム・改革への取り組み状況をお聞かせ願えますか?

A 今まで何もなかったわけではないのですが、ファイルとして沢山置いてある場所があったり、Web上に
  まとめてあったりはしていたんです。しかし、フィルタがかかっていない状態だったんですね。だから、
  それらをしっかりとした視点でマネージメントして、設計統合環境の中で使ってもらえるような仕組み
  を作っていけたらと思っています。情報画像ではナレッジマネージメントという今の世の中の言葉に対し、
  ひとつの答えとしての情報画像専用のポータルサイトを持っています。そこには当然「見るべき情報」と
  「聞くべき情報」が、セキュリティなどを経て管理されているんですけれど、やはり、どちらかというと
  経営情報が主となっているんですよ。

Q 商品設計者のニーズとしては、経営情報というよりも設計に必要な情報を求められているように
  思えますが、いかがですか?

A 情報画像事業部では、専用のナレッジサイトとして立ち上げて、そして今やっと回り始めたというところです。
  ただそこにある情報の質と高さと、実際に今、設計者が望んでいる情報とは別だと思っています。
  といってそれがあれば基本的に回路設計者が設計をしようとした時に、その情報だけで設計ができるかと
  いいますと、できないんですよね。やはり特別な専門分野の技術情報がなければいけないし、ノウハウ
  なども存在しなければならない。それは大きなナレッジサイトにあってもいいのかといいますと、万人が
  必要というわけではないのです。特に経営にとってメリットがあるかといいますと、もっと次元が違う話に
  なってしまうと思うのです。目指しているものが違えば、ある特定分野における売られた場所というのは、
  必要となっていると思っています。設計という特異な分野に関しては、サポートする側の情報なども
  変わってくるのではないかなと思います。

 

Q 今後、実際に電気設計のテーマでは、試作レスとか、品質の向上などが取り上げられています。
  さきほどシミュレーターの話も出たのですが、特にどのあたりの解析が今後のテーマになるのでしょうか?

A シミュレーションに関してはプロセスの中に組み込むシミュレーションと、その後、課題や問題が出たときに
  分析をするためのシミュレーションとは違うと思うんです。私たちが商品開発をして、最終的に商品化を
  するという目的に対して、一番価値のあるプロセスに組み込まれなくてはなりません。
  例えばシミュレーションというものが、そのように価値ある提案であればそちらの方向に向かっていくことは
  確かだと思います。ただ、私たちが知っているシミュレーション技術は、スポット的な解析に使われている
  要素が強いのではないかと思っています。だから、クロックが早い商品を設計する時に問題があるから、
  ある特定の回路やクリティカルラインに関して、シミュレーションをしましょうということです。だけどそれは
  プロセスの中に完全に組み込んでいるわけではないし、それをやっていたら開発が遅れていってしまうと
  思うんですよ。ただ、トータルで考えればやっておかないと、手戻りが発生してしまう可能性があるので、
  やっていかなければならないということもわかっています。一番いいのはシミュレーションをしなくても、
  結果が得られる基準や、ルールに落とし込めればと思います。

  私は、設計で使うものと、原理を求めるためにする開発的な要素とは違うと思うんですよ。私たちが理想
  とするもは、実際の設計では、できるだけシミュレーターを使わないことです。ですから、シミュレーションを
  して答えを出すのではなく、シミュレーションは最終的な結果を判定するものだと思います。
  シミュレーションをして答えを求めるものは、もっと研究開発の要素で使っていきたいと思っています。
  ですからその答えは何か基準やルールにかけ、落としなおして、ドキュメント化、システム化をしていくと
  いうわけです。ルールにして数値化できるようなものに落とし込んでいく方法です。それを確認する時は
  シミュレーターを使うわけです



Q シミュレーションモデル管理システムを利用してモデルを整備されていますが、モデル自体を蓄積していく
  イメージになるんですか?

A データベース化を行い準備しています。やれるだけのことはやっていこうということです。
  当然、シミュレーションするにあたっても、モデルがなければできないことです。だから、本当にプロセスの
  中に入って、どんどんシミュレーションするには、モデルが全てそろっていないとできませんよね。
  先ほど言いましたが「検証」という意味での、シミュレーターを動かす場合にも、必ずモデルは必要に
  なるので、ひとつの要素としてシミュレーションモデルを集めて、整備・ライブラリ化する作業を行っています。



Q 今期の活動テーマ・計画をお聞きしましたが中期的なビジョンとして、今後プリンターは海外の需要が高いと
  思うので、最後にそのあたりに向けてのテーマ・課題などをお聞かせください。

A 今までというのは、広丘一局集中の「設計開発技術業務」が集中していたんですね。
  しかし、昨年シンガポール、九州など、拠点を分散化していくということで、今後も中国、フィリピン、インドネシア
  などの製造と設計が一体となったような仕組みが大きく叫ばれています。その中で、同じ環境・同じ情報を視野
  しながら協業していける環境を作るというのが、私たちにとって急務だと思っています。
  当然、言語の問題があるわけで、そこにまつわるシステムのOSだとか、アプリケーションなどの言語化の問題、
  またそこに関わってくる情報も、どういった形で処理していくか・・・。今の状況では、リアルタイムという形で協業
  できる体制ではないんですよ。ですからここで設計したものがリアルタイムで確認でき、話せる形で協業できる
  仕組み、仕掛けは今できていないんです。今までは広丘という限られた場所でやっていたんですね。
  でも多人種・多言語で、しかも職場も違う人たちが、ひとつの設計を皆で分散してやっていくという「分散型の
  仕組み」が私たちシステム部門として、どうやったら本当にやっていけるかを考えてかなければならないですし、
  求められていることではないかと思います。あとは、それに対して何をやっていけばいいのかが非常に難しいこと
  です。それは私たちだけではできないので、アプリケーションのメーカーさんや、付随する技術の進歩がなければ、
  根本的なネットワークの問題やアプリケーションの言語への対応などから、ディスクトップマニューファクチュアリング
  がワールドワイドにできる環境が今すぐにできるわけではないんです。ですから、ある程度のスパンで中期にやって
  おかなければならないことだと思っています。

  ただ、世の中の進み方がドックイヤーといわれる進化を続ける中で、私たちシステム部門ができないからといって、
  それでいいのかというとノーですよね。そこがやはり本社ミッションと事業部ミッションとの違いでしょうね。
  事業部ミッションというのは、何とかしないと商品そのものに影響してしまうんです。事業部の事業展開に影響
  してしまうということです。それを限られた時間の中でどうやって達成するかが、命題になってくると思います。
  事業部の特性として、困っている人がすぐそこに居るんですよ。その人に対して、ごめんなさいというわけには
  いかないですからね。どんな小さな問題でも、小さな改善でも、何らかのことをして対応していかなければ
  いけないという苦しさもあります。ですから、先にあるビジョンを読んで先取りしていかないと、今の事業部の
  進んでいるスケジュールに合わないんです。それは、求められた時に結果を出して間に合わせることができ
  なければ、私たちが居る意味がないと思うんです。これが事業部における情報推進のミッションの大きな
  ところだと思います。辛いところではありますけれど、それがしっかりと読めてやり切れれば私たちの部門の
  価値がはっきり出てくると思います。

  もうひとつは、情報画像、商品開発をして物を売っていく部門というのは波がありまして、良い時もあれば
  悪い時もあると思うんです。そして良い時は長く続かないので、良い時代を長く続けるためにいろいろな人
  たちが、いろいろな努力をしていくことが大切だと思います。今は、右肩上がりが停滞している中で、やはり
  効率化や今後の展開を広げていくということで、新商品を作るための足がかりにしていくという時期だと
  思うんです。この時期に、何か大きな提案ができる力を蓄えて出していかなければいけないと思っています。

Q この度は、お忙しいところ、貴重なお話を伺えることができました。本当にありがとうございました。
  ますますのご活躍を心よりお祈りいたします。

お忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。